AI&IT時代を生き抜くために

長年、教育の分野にも携わりながら、フィンテックの最先端企業の監査役をされている永井健蔵先生を、つくしの会がお招きしてこだま幼稚園で講演して頂きました。
 
永井先生のお話は、最新のビジネスの現場の話も交えながら、今までとは違う素養が必要となる時代と子育てについて、興味深いお話でした。その講演要旨を簡単にご紹介します。
 
【講演要旨】
 
・今の最先端企業では、社内のプロセスが全てIT化されている。例えば出張経費の精算から稟議の処理まで。経費の精算もレシートをスマホのカメラで撮影するだけ。自分で入力はしない。会議も大部分がリモート化されていて、これはコロナ禍が終わったとしても、もう元へは戻らない。
 
・ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロが書いているように、ビッグデータやAIが世の中を能力社会に変えて、格差社会となるのは否応無しだ。
 
・そんな中で、これまで学歴エリートだった人たちも、能力で選別されるようになった。高学歴でも仕事ができなければ、容赦なく放り出される。そうした若い社員を何人も見てきた。
 
・特に、最近は男性がひ弱で、たくましい女性が増えている。子どもは小学4年生(十歳)までに、きっちりそだてないといけない。
 
・自分の娘の話をすると、小学校から高校まで神奈川の桐蔭学園に通わせた。私立小学校に入れたのは、その時期の教育が大事だと思ったから。その後は進路について口を出さなかったが、フェリス女学院大学に進み、トップクラスの証券会社である野村證券に入社し3年勤めた。その後数百人が応募したAmazonに転職し、結婚出産と自分の人生を歩んでいる。小さい時に手をかけたおかげで、後で楽ができた。
 
・立教小学校の校長先生が、かつてこう言っていた。「もし今、砂漠に一人取り残されたとしても、生き抜いていける力を持つ子どもに育ててください。」
 
・現在の会社の前は、ゲームを制作する会社の監査役をしていた。ゲームは出荷前にテストをするので、バグ出しをするためのアルバイトを募集するとたくさん集まってくる。彼らは終わったら解散する。ゲームをするだけでは、会社に残れないからだ。ゲームをやる方ではなく、作る方になるべきだ。
 
・子どもには、ゲームをするなら本を読めと言いたい。自分は子どもにゲームはやらせない。「みんな持っている」と言ってきたら、「みんなって誰。誰と誰が持っているの?持ってない子はいないの?」と聞けば、全員ではないことがわかる。親が毅然としてゲーム禁止をすればよい。子どもの前で親がゲームをするなんてもってのほか。ゲームは百害あって一利なしだ。
 
・かつて寺子屋(小学生を預かって勉強させる場所)の小学生で、学校の図書館の本を全部読破した男の子がいた。この子は高倍率の群馬県立中央中等教育学校に合格した。
 
・私立暁星小学校の門には次の言葉が刻まれている。「困苦や欠乏に耐え、進んで鍛錬の道を選ぶ、気力のある少年以外はこの門をくぐってはならない」こういう気概を持って教育をしている学校がある。
 
・欲望を抑え、自分をコントロールできる人間になって欲しい。会社の若い人で、東工大出身者がいるが、彼は受験で合格するために一年間テレビを片付けてしまった。
 
・監査役の集まりである日本監査役協会で、日本を代表する一流会社の監査役と一緒に活動しているが、彼らの多くは人格者が多い。その立場にいても人を見下したりせず、実に謙虚で後輩を褒めるのも上手。真っ当に育って人生を歩んでくると、こうなるのかと思う。
 
・日本の会社は約421万社あるが、その中で上場企業は0.08%、一部上場は0.05%しかない。会社が上場を維持するには大変な努力がいる。3ヶ月毎にあらゆるプロセスを見直し、改善している。社員はスキルを磨いている。こうした企業で働くことが、いかに大変なことか。
 
・子どもに職業をすすめる場合に、現在人気な職業ではなく、これから有望な職業を教えたい。例えば、トレンドマイクロというウィルスセキュリティの会社があるが、そうしたITセキュリティの人材は少ない。手に職を付けるならAI時代のスキルが良い。また、コンプライアンスを守るということが重要になってきている。不祥事で業績が傾く会社も少なくない。企業統治・企業会計・人事・労務・法務などでは優秀な人材は引く手あまた。これからますます重要なポジションになる。そうした職業は所得も平均より多い。高卒の平均生涯年俸は2億、大卒2.6億。専門職はさらに高くなる。社会保険労務士、理学療法士。資格はなくとも契約書を作れて読める法律の知識は重要。
 
・スキルに加えて大切なのが、マネージメント能力とコミュニケーション能力だ。複数の仕事を同時並行でこなさなければならない。指示以上のことができるよう求められている。新卒で育てる時代は終わった。
 
・子育てで大事なのは6つの自。
 自学自習…自分で学び、自分で習熟する
 自問自答…自分で課題を見つけて、自分で解決する
 自調自考…自分で調べて、自分で考える
 さらに『自律』を加えたい。セルフコントロールする力。
今の世の中どうしてもゲームをすることが避けられないなら、自分で時間を決めてやめられる子どもなら良い。
 
・単なる勉強だけでなく、地頭力≒論理的思考能力も必要である。犯罪や不祥事の報道がなされているが、これも論理的思考ができないから、そういうことを引き起こすのだ。そんなことをしたら、次にどうなる。結果として自分の人生にどう影響するかを考えられたら、できないはずだ。
 
・「勉強しろ!」と言うだけでは、子どもは勉強しない。自分の親は大河ドラマをよく見ていた。自分も子どもと一緒に大河を見ていた。すると日本の歴史に興味を持ち、人より詳しくなった。くだらないバラエティを見るか、教養のある番組を見るかで違ってくる。子どもに勉強をさせたければ、親の態度を改めるしかない。
 
・物事をよく観察して、深く考える深慮が必要だ。そして、命令ではなく人を動かす能力が欲しい。よく人たらしと言われるがあれだ。「あの人の言う事ならしょうがない」と聞いてしまう魅力。
 
・勉強しようと思ったら、ただでいくらでも情報が手に入る時代。GoogleやYoutubeでいくらでも学べる。かつてPCが企業に導入されたころは、情報を得るツールとしては使えなかった。ICTを上手に活用して学んでほしい。
 
・ただし、ネットの情報は玉石混交なので、複数の情報源をあたって『フェイク』を見抜く力も必要。『コピペ』に騙されないこと。これからは過大な情報の海を泳いで渡らなくてはならない。そして『課題解決能力』が求められる。
 
・子育ては20年~30年後に結果が出るものである。今すぐ結果を求めないこと。進んでいく方角を間違わないように。
 
・私立小学校の受験で指示行動というのがある。それは先生の話をよく聞いて、理解し行動できるかを見るもの。右の耳から左の耳へ抜けていては、指示行動はできない。人の話をよく聞く、傾聴が必要。聞くだけでなく理解すること。家でも子どもに言いつける時には、理由とセットで伝える。
 
・小学校入試の面接で校長先生が言うのは、「親子で部屋に入ってきて座った途端に合否がわかる」ということ。何千組の親子を見てきた経験から、その姿に家庭が透けて見えるそうだ。
 
・会社はホームページを見て分析すると、かなりのことがわかる。子どもだって同じで、よく観察して分析することだ。企業自社の実態を知るために様々なチェックシートを用意している。子どももチェックシートをつくって、分析したらよい。PDCA=Plan-Do-Check-Actionのサイクルを回して改善していく。これができる企業は業績を上げ、怠っていると潰れてしまう。人間も同じ。
 
・塾や習い事をはしごして、子どもの可処分時間を奪っていないか?!。親のエゴで子どもの時間を搾取するな。何が子どものためになるか、よく吟味しよう。
 
・父親の子育てへの関わりについて。男の子は思春期になると母親の言うことをき聞かなくなる。こうなったら子育ての主役は交代し、父親に任せる。小学校4年までに子離れを済ませたい。

永井健蔵先生プロフィール

国内大手証券会社・外資系保険会社勤務の後、国内一部上場大手情報通信会社傘下のゲーム子会社で常勤監査役に就く。 その後、教育系コンサル業を起こし、2011年、こだまの寺子屋を開設。 2015年、情報通信企業の常勤監査役に就任。 2018年、東証マザーズに上場。現在に至る。
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