いのちの芽を育てる言葉のちから

2016年6月20日(月)に、こだま幼稚園つくしの会(保護者の会)主催の講演会が高崎市総合福祉センターたまごホールで開かれました。その講演録をここにご紹介します。
【土屋秀宇先生講演要旨】
 言葉の教育は心を育てる。幼児期に美しい言葉、格調高い言葉に触れることで、高い共感性や自制心がみにつく。幼児期は言葉を蓄える時期。その時期に美しい言葉のシャワーを浴びせよう!また日本は母国語で最先端の学問が学べる世界でも珍しい国。その基礎は漢字にある。考える力の元になる漢字力を幼児期に磨こう!

どこか変だよ日本人

食品偽装やデータ改ざんなど、日本人らしさが失われてきている。 正直さを失い卑怯な振る舞いが激増している。
かつては、フランス駐日大使で詩人だったポール・クローデルが「私が決して滅ぼされないようにと願う一つの民族がある。それは日本人だ。彼らは貧乏だが、しかし彼等は高貴だ。」と言わしめたのに。目に見えない部分を大事にする正直な心を持つ日本人が、世界中から愛されている。現在かろうじて日本人の矜持を保っているのは職人だけかもしれない。
 
また、日本は子供達の天国と言われていた(エドワード・モース)。それくらい子どもを大事にしていた。しかし、児童虐待が年々増え続けているし、小学校入学したての児童が集団行動ができない「小1プロブレム」(4校に1校)「不登校」「校内暴力」「いじめ」が激増している そして校内暴力が低年齢化。小1でも起きていて、8年前の5倍に。これは由々しき事態だ。いじめ問題が起きるとマスコミは学校を叩くが、問題のある子どもの影には問題のある親がいる。大人より先に子どもが悪くなることはない。

自己肯定感が低い日本の子供達

世界の国の中で、断トツ日本の子供達の自己肯定感が低い。自分に価値があると思っている子どもは世界の半分以下。自信と誇りが持てないのが日本の子ども。日本の成人の国語力は世界で何番目だと思うか?(会場で挙手) 圧倒的に10位以下が多かったが、実際は1位。大人も自己肯定感が低いのでは?子供の国語力も先進国で断トツトップクラス。米独の高卒よりも日本の中卒の方が高い学力を持っている。OECDの調査で国語と算数はトップ、科学も2位。決して学力は低くない。

日本の教育力を支えて来たものは何か?

ノーベル医学生理学賞大村智博士、物理学賞梶田隆章博士など日本はノーベル賞大国だ。 自然科学分野では平成12年(2000年)以降ではアメリカについで世界で2番めの多さ。それはなぜか? 中国人はオリンピックを音を当てる当て字を使う「奥林匹克」。 一方、日本では「五輪」と意味を表す造語で表す。
日本人は、西欧の学問を漢字で翻訳した。母国語で科学を学ぶ事ができるようにした先人の努力のたまもの。日本の高校生は微積分を日本語で学んでいるが、これは世界が驚く事実。ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英博士がスピーチで"I can not speak English."と言って始めたことに世界が驚いた。なぜなら世界の常識では、最先端の研究は英語でするものだから。
 
日本は江戸時代から世界一の識字率だった。読み書き算盤の基礎教育がなされていた。そこでは日本精神を育む古典教育が充実。外国の学問を母国語で学べるようにした先人の努力にも関わらず日本の子供達は自尊感情が低いのか?
 
原因は70年前に遡る。太平洋戦争の敗戦後、GHQにより日本人劣化作戦が始まった。天皇や皇室に関わる用語はダメ。愛国心につながる用語もダメ。日本国の神話や英雄もダメ。神道や祭祀・神社に関する言及もダメ。この他に「~道」のつくものを禁じた。建国の由来を教えない国は世界でも日本だけだ。教科書から削除された歴史上の人物も多数いる。
 
さらに、日本人が自ら作った劣化原因がある。文部省(現文部科学省)が日本の国語教育から古典を削除したこと。歴史的かなづかいを現代かなづかいに変えてしまったこと。「現代かなづかい」は矛盾だらけ。
 (例)
 鼻(はな)+血(ち) ⇒ はなぢ
 地(ち)+面(めん) ⇒ じめん
 
誤った国語で生活している日本人は、無意識の内に倫理観を喪失している。アンドレ・マルローはこう言っている。「国滅びる時は、その国民が文化・歴史を忘れる時にほかならない」。しかしH23年から小学校で古典学習が復活という明るい兆しはある。

よみがえれ!日本の教育

教育再生のために4つの提案がある。
1.乳・幼児期こそ教育の出発点
2.育てるべき第一は「徳性」
3.「言葉の教育」は徳育そのもの
4.脳科学の英知を教育に
 
不登校・いじめ・暴力の芽はすでに乳幼児期に生まれている。我慢できない子供が多い。育てるべき第一は徳性、豊な情緒と感性、そして「良き習慣」である。人間として育てたい心(徳性)は前頭前野に存在する。自分は良くなりたいと思い、他人の成功を妬む矛盾した困った存在、それも人間である。個を主張し他を否定する。この大矛盾を乗り越えるためには抑止の訓練が必要だ。 教育の力で他を認める心を育てる。自他一如の心を育を育てることが大事。
 
自他一如 人の喜ぶ姿を見て自分のことのように喜び、人の悲しむ姿を見て自分のことのように悲しむ
幼児にはその時でなければ育たない能力がある⇒臨界期(=最適期)。与えてはならぬと与えることの害を説くものは多い だが、与えるべき時に与えないことの害の大きさを指摘するものは少ない。共感力・愛着形成・感情のコントロールを身に付けることが大事。それは三つの抱きしめる教育で。
    1.からだ(肌のふれあい)で
    2.笑顔(優しいまなざし)で
    3.言葉(愛語・母乳語)で

日本小児科医師会が言葉の発達に影響が出るので、2歳まではTV控えてと呼びかけている。現在、発達障害は1学級に2人超(15人に一人)いる。言語習得の最適期は7~8歳まで。前頭前野(=徳性)は言葉とともに発達する。測り知れない幼児の高い吸収能力により、言葉を使う能力の基礎は幼児期にほぼ完成する。言葉なしでは生きられないのが人間。言葉は心を生み、心は言葉を生む。すなわち、言葉=心(情緒・徳性)。言葉は心を育てる母乳である。
 
言葉の栄養たっぷりの子は情緒が安定し、言葉の栄養不足は情緒不安定・暴力化する。言葉のはたらきは、
1.情緒・徳性を生み出す
2.知的活動(理解・思考)の基盤
3.コミュニケーションの基盤
 
語彙数100のこどもと語彙数2000の違いはどこにある?それは言葉(語彙数)をいかにして豊かにするかが鍵となる。語彙力の鍵は漢字にあり!。子供にとって易しいのは、ひらがなよりも漢字。 漢字は「表意・表語文字」であり一字が単語そのもの。山 = mountain、目=eye。漢字を一つ読めること=言葉(語彙)が一つ増えること 。
 
 漢字は「読み先習」で覚える。子供はなぜ漢字を好むのか?それは漢字が目で見る言葉だから。話し終わった瞬間に消えてしまう話し言葉よりも安心できるから。9歳半の節を過ぎると、学びのスタイルが一変する。子供型の脳から大人型の脳へと変貌してしまう。幼児期はくりかえしが大好き。だから無負担・無努力で入力できる。難しいものほど興味・関心を持つから、先に入力後で理解の方針で学習する。

脳科学の英知を教育に

前頭前野を鍛える一番の方法は音読である。音読は脳の全身運動。人間の脳だけが声に出して読むことに特別な喜びを感じる(脳科学者 川島隆太先生)。美しい心は美しい言葉から生まれる。言葉を入力した後は言葉のいのちが子供をコントロール!インプットされた言葉を実現しようと心が働いてしまう。(ものまね細胞の働き)
言葉は子供達の命の根っこ・心の根っこ。根を養えば樹は自らよく育つ。乳幼児期は言葉の貯えの時期。美しい言葉のシャワーを!一に愛語、二に愛語、三・四に愛語、五に笑顔。

講師紹介 土屋秀宇(つちやひでお)
プロフィール
 

昭和17年、千葉県生まれ。昭和40年 千葉大学教育学部英語科卒業。
平成6年、「自ら学ぶ力を育てる漢字指導」で、第43回讀賣教育賞受賞。 13年間にわたり小・中学校の校長を歴任。自閉症児や知的障害児への漢字指導にも力を入れ成果をあげる。千葉県教育功労賞受賞。
日本テレビ人気番組「世界一受けたい授業」などに出演。
現在 NPO法人 日本幼児教育振興會副理事長、國語問題協議會評議員、漢字文化振興協会理事、教師塾「まほろばの会」講師 、「漢字楽習の会・子供達に美しい日本語を伝へる会」主宰
 
著作
 
『子供と声を出して読みたい 美しい日本の詩歌』(致知出版社)
『日本語「ぢ」と「じ」の謎』(光文社文庫)  など
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