造形作家 和久洋三先生講演会

こだま幼稚園「つくしの会」主催の講演会が開かれました。
 
演者は東北芸術工科大学客員教授で子どもの創造教育に長年携わってこられた和久洋三先生です。
テーマは「子どもの目が輝く時」
 
熱心に盛りだくさんのお話をして下さって、まとめきれないほどですが、エッセンスを絞り込んでお伝えします。

愛の口撃

子どもが夢中になっている時には止めないことです。表現活動は自分の思うように表現することが大事。音楽・踊り・絵は原始時代からやっているのでDNAに刻まれています。
 
「ああしなさい、こうしなさい」と口出しをして、子どもの邪魔をしてはいけません。成人して絵が嫌い、苦手という人は、小さいころ大人に苦手意識を植えられたのです。
 
子どもの感覚は素晴らしい。何百万円する絵と変わりません。それなのに母親は教えたがり。「人の顔は肌色でしょう」と押し付けます。教えないと賢くならないと思っているのでしょう。
 
子どもが何かやっている時は黙って温かく見守ってやることが大事。短い時間でやらせようとすると、子どもはそれを感じます。じっくりやらせましょう。
 
自分も指導しないといけないと思っていましたが、50歳過ぎて止めました。子どもの絵の良さが自分には分からないと思う謙虚さが必要です。表現活動は「また描きたい」という気持ちにすることが大切。「ママ描いて」という子どもはあれこれいわれて意欲がないのです。
 
子どもの意欲をつぶさないようにしましょう。

子どもの才能の限界は大人が決めている

積み木指導に行って先生方に言うことは「指導しないでください」。指導者は子どものアイディアと要求にのみ従うことです。子どもが「長い板が欲しい」と言ったら、それを用意するのが大人の仕事。
 
大人が子どもはこれくらいと思うと、子どもはその範囲内でしか活動できません。自由に活動させたら大人にもできないような物を作り出す力があります。子どもの限界は大人が作るのです。
 
凡人と天才の違いはどこにあるのでしょうか。エジソンの言葉に「天才は99%の努力と1%の天分からなる」というのがありますが、たった1%なら誰にでもあるでしょう。つまり誰でも天才になれる可能性があるということ。
 
好きなことに出会うこと、夢中になれることが天才への道です。他人からすると、なんであんな大変なことをしていると思うことも、本人が「気がついたら朝になっていた」と感じるのなら、面白がっているので良いのです。
 
人はイヤイヤすることはできるだけ楽をして早く終えようとします。けれども、楽しいことはできるだけ長い時間をかけて、あれこれ苦心してもやりとげます。
 
「好きこそ物の上手なれ」だからです。我が子が夢中になれることを探しましょう。
 
子どもが夢中になると言っても、それはゲームの世界ではありません。ゲームの世界は予め大人によって作られたもので、子どもがその世界を広げることはできないから。
 
とにかく集中すること。夢中になってやり続けたら、1年間で天才になれます。能力は掛け算。集中しないと割り算になってしまいます。集中している子どもの邪魔はしてはいけません。集中した経験が、いつでも集中できる力を作り出すのです。
 
60歳になっても母親の視線が気になるという人がいました。そんな大人でも母親の影響からは逃れられないのです。お母さんの一挙手一投足を子どもは見つめています。
 
心が弱い子は親に愛されていると自覚が弱いのです。人は愛されて自己肯定感を持ちます。

三つ子の魂百までも

人の脳に眼窩前頭皮質というところがあります。ここは古い脳と新しい脳の調整するところ。その部分は3歳までに発達します。やっていいこと、やってはいけないこと、やらなきゃならないことが分かるようになるのです。
 
おすわりできるようになると、なんでも手でつかんでいじりだします。人は手を使って考えるのです。1歳~1歳半まで様々な試行錯誤をするのは必要があってしています。
 
2歳半で言語爆発が起こります。これは言葉の文法を理解するから。それまで周囲を飛び交っていた言葉に秩序を見出すことができるのです。難しい文法を理解できるのなら、素敵な絵やすごい積み木を作り出すことができて当然です。
 
三つ子の魂百までは数え年での話。2歳までのことです。それまでの経験をその後の人生で何度も繰り返すのです。何かを学んで、それができるようになるプロセスは2歳までの繰り返しです。
 
そんなに大事な時期なのに、不思議なことに2歳までのことは覚えていないのです。盲目のピアニスト辻井伸之は2歳半で音の記憶を元にジングルベルを弾いたそうです。ちゃんと体に染み込んでいるのです。
2歳で手に取った物と物をくっつける動作をしますが、積み木を組み合わせて遊ぶのは、1つの物の可能性を広げる行為です。
 
可能性が広がらない玩具はダメです。
 
積み木でバスを作ったからバスが好きなのだと、バスの玩具を買って与えるのが親心。でも、それは余計な事です。積み木で作ることに意味があるのです。
 
もし、親が口を出すのならば、唯一の答えを与えるのではなくて、色々な解決策を子どもと対話して自分で解決させるようにすること。
 
「みんな違ってみんないい」という詩がありますが、表現活動の良いところは、それを実感できることなのです。
 
自己肯定感のある子は試行錯誤が大好き。「自分で!」を大切にしましょう。

秩序と美

安部公房の娘が、父からどんなものでも数学的思考から始まるとよく言われたそうです。
 
人間は秩序を見つけ出そうとする生き物です。そうしないではいられない。自由とは何でもありではないく、そこには秩序が必要です。
 
人間は常に関係性を見つけ出そうとするそのために秩序を探します。
 
関係性×必然=真理
 
関係性×調和=美
 
人とは脆いものです。4歳になると子どもは友達を必要とします。人と人との関係性が重要度を増すのです。関係性の中で生かされてきた命を生かすには、他人のために自分の命をどう生かすかを考えなくてはなりません。
 
現代は自分が強くなり過ぎました。地方は疲弊崩壊しかけています。私は、子どもの頃におふくろに言われた言葉を思い出します。
 
「元気で何でもできるのだから世の中のためにならなくてはいけない」

質疑応答のまとめ

・子どもに適した絵の具はアクリル絵の具。速乾性があり混ざり具合が適している。
・絵を描く環境を用意するには、プロの真似をする。一番育つ時に一番良いものを与えること。
・味覚は感覚で美味しい、きれいは感性。感性を高めるには良い感覚を刺激する。感性が感動を呼び起こす。
 
文責(高橋)
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